第一部 あらすじ。

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惰弱であった父王を斃し前王子が神聖王と宣して以来、破竹の勢いで領土を広げて行く北の騎馬王国ゴルムンのまだ若い騎士レイアスはある時、まだ幼さすら残る沼族からの徴発奴隷戦士アズィルと出会った。 どうも見覚えがある。子どもの頃、祖父の家で遊んだ幼馴染たちのうちの一人であったらしい。 そんな動機から、何かと酷い扱いをうけやすい奴隷戦士を、さりげなくかばってやったりしていた。 老いたとはいえ神聖王はまだまだ健在で、王子たちも盛んに出征し功績を競いあい、年に幾度となく戦勝の女神を称える賑やかな祝祭が開かれる。 レイアスも初陣以来、順調に手柄を重ね、出世を続け、ある年、大規模な戦闘で一旦苦境に陥った自軍の勢いを盛り返した手柄で、ついに百騎長に昇進することが決まった。 その戦での真の犠牲…捨て石にされたと言うべき…奴隷戦士隊はほぼ壊滅してしまった。 それを苦労して再編するより、今回昇進する自分付きの直属奴隷になれと、アズィルを勧誘し。 当然、喜んでくれたと信じて返事も聞かずに、昇進式へ出席するため駐屯地から都へと向かう軍船に乗って旅立った。 その朝。 波止場に見送りに来なかったアズィルに不満と不審を感じながら、船上からふと振り向いた時。危険だからと普段は誰も立ち入らぬ河沿いの滑崖山の見晴台に…小さく見える… あれは、アズィルか…? と、目を細める間に、その姿は崖から遥か河面へと、身を投げた… 見ていた他の者たちは、奴隷の身を恥じて波止場へは来ず、山の上から主を慎ましく見送ろうとして、足を滑らせたのだろう、馬鹿なやつ…と嘲笑して終わらせようとしたが。 レイアスには、足を滑らせたのではなく、自ら身を投げた…としか、視えなかった… 戦士とも思えぬ勢いで慟哭し、遺骸を探しに戻ると暴れるレイアスを周りは呆れて持て余しながらも、皆も同席する昇進式で恥をかかせるなと都へむりやりひきづって行く。 動揺から、らしくもなく失態をさらし、新しい地位に翳りをさしながらやがて駐屯地に戻ったレイアスは… やはりアズィルは身投げであったと知り、その遺書を読み、哭き沈むのだった…。
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