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(あざといよなぁ)
自分に苦笑しながら、奏は風呂場へ向かった。こんなふうに、いちいち成留の反応を試さなくても安心できる日は来るのだろうか。もともとノンケの、女受けする成留がかわいげのかけらもない男と本気で付き合うはずはない。しかもあれは、なにかの勢いというか、その場のノリとしか思えない申し出だった。――そんな不安を、どうすればぬぐえるのだろう。
作務衣も下着も脱ぎ捨てて、浴室に入り頭から湯をかぶる。
「ふう」
(俺は、成留をかわいいと思う。バイトのときから、気になっていた。だが、成留は? あいつは俺じゃなくとも、引く手あまただろう)
求められたいと思うのに、最後まで許す気になれないのは臆病だからだ。捨てられるのはこちらの方だ。いずれ近いうちに捨てられてしまうのだと、頭の隅で叫ぶ声がある。
(俺に、それほどの価値があるのか?)
だからいつも、さりげなく挑発をしてしまう。そして成留がそれに反応するかを確かめている。――それなのに、求められるとかわしてしまう。
(ずるいよなぁ)
頭を洗っていると、浴室の扉が開いた。振り向けば裸身の成留が立っていて、ギョッとする。
「成留、なんで」
「背中、流そうと思って」
「大の男がふたりも入ったら、狭いだろう」
「だぁいじょうぶですよ、先輩」
成留はシャワーを手にすると、奏に湯を浴びせかけた。
「わぶっ、いきなりかけるな!」
「あはは。まあ、いいじゃないですか。さ、洗いますよぉ」
上機嫌でタオルを濡らし、石鹸を泡立てた成留はさっそく奏の背中を擦った。
(まさか、こういう行動に出るとはな)
なんとなく膝を閉じて股間に手を置き隠した奏は、おとなしく背中を擦られる。成留の力加減は絶妙で心地いい。身を任せていると、湯気で体が熱せられたからか、酔いがぶり返してきた。
うとうとしている奏の横顔を見て、成留はニヤリとした。泡にまみれた手を勢いよく奏の手の下に差し込んで、やわらかな状態の男の証を握りしめる。
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