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目覚ましに手を伸ばし、ぽこんと音を止めた成留は、もぞもぞと布団の中で身じろいでから、えいっと気合を入れて起き上がった。
「んー」
伸びをしてベッドから降り、顔を洗って静まり返った台所に立つと、使用する道具や食材をすべて取り出し並べてから、調理をはじめた。
外はまだ薄暗い。成留が作っているのは、スクランブルエッグ。ウインナーも焼いて、レタスを適当にちぎり、切ったトマトときゅうりを乗せてドレッシングをかければ終わりだ。
スクランブルエッグとウインナーの横にバターロールパンを並べ、よしっと満足した成留はドキドキしながら奏の部屋へ向かった。
そっと襖に指をかけ、音をたてないように滑らせる。中を覗いた成留の口許がヘニャリと歪んだ。
(先輩、すげぇかわいい)
奏は掛布団を抱き枕よろしく抱きしめて、襖に背を向け眠っていた。めくれた寝間着から、チラリと脇腹が見えている。興奮しながら足音をしのばせて入った成留は、奏の枕元に正座した。
咳ばらいをして、奏の肩に手をかける。
「先輩、朝ですよ」
いつもは起こされる側が、起こす役をしている。おまけにこの部屋に入るのも、寝顔を見るのもはじめてで、成留は起こしたい気持ちと寝顔をながめていたい気持ちの間で揺れていた。
「ねえ、先輩」
なので、起こす声がちいさくなってしまった。
「朝ごはん、冷めちゃいますよ」
耳元でささやけば、うーんと奏がうなった。まつげが震えただけで、まぶたは開かない。
「目を覚まさないなら、王子様のキスで起こしちゃいますよ」
なんだそりゃ、と奏は眠りと覚醒の間でつっこんだ。襖を開けられたときから、なんとなく意識は浮上していた。けれど体が眠気にしっかりとくるまれていて、起きる時ではないと訴えている。そのままじっとしていたら、起こす気があるのかないのかわからない小声で、成留がささやいてきたのだ。
「先輩」
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