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 成留が小声のままなので、奏は無視することにした。だいたい今日は成留が休みで、昼までゆっくり眠れる日なのだ。朝寝をたっぷり味わいたい。それに、本当に成留がキスをしてくるのか興味があった。というか、キスをされたかった。 (王子様っていうのは、意味がわかんねぇけどな)  そもそも俺は姫ではないし、と奏は自分の姿を思う。どこからどう見てもムサいオッサンだと、自分では思っていた。それを成留はことあるごとに、かわいいかわいいと連呼する。まったく意味が分からない。けれど、悪い気はしない。それどころか、うれしかったりもする。  奏の意識が起きているとはすこしも気づかす、成留は間近でじっくりと奏を見つめた。息がかかるほど近くで、隅々まで奏をながめるなんてめったにない機会だ。 (はぁ。やっぱ先輩、すげぇかわいいなぁ)  どこがどう、と問われれば説明に困る。むしろもう、存在自体がかわいいんだと言い切ってしまうしかない。そう、先輩は全部がかわいい。トータルで先輩かわいい。一般的には理解されない感覚だと、成留はちゃんと理解していた。だけれどそんな一般論なんて、どうでもいい。心の底から身もだえて、床をゴロゴロ転がりたくなる俺の感情こそが正義。先輩はかわいい。誰がなんと言おうとかわいい! 「はー。このままずっと、ながめていたいなぁ」  気持ちがそのまま声に出た。けれど、それでいい。言わなければ伝わらない。魂の叫びが思わず漏れたと奏に伝えたい。そのためには起きてもらわなければ。しかし、寝顔をもっと見ていたい。
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