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どっちだよ、と奏はまたもや心の中でつっこんだ。起こしたいのか、このままでいいのかハッキリしろ。頬やまつげ、唇あたりをさまよっている成留の視線に、奏の心臓はドキドキしてきた。キスをするのかしないのか、さっさと決めてほしい。緊張のために眠りの淵から出てきた意識が、体も目覚めさせていく。
「先輩」
耳元でささやかれ、奏は震えそうになる体を、かろうじて押しとどめた。呼気に耳奥をくすぐられてゾクゾクする。成留の手が胸元に触れ、背中にぬくもりが当たった。心音がどんどん高まっていく。呼気が耳朶から移動して頬にふれた。成留の手にうながされ、あおむけになる。おおおいかぶさられる気配に、奏の心臓は口から飛び出しそうになった。
「ああ、先輩」
うっとりとした声が唇に触れる。甘くついばまれ、奏はこっそり指に力を入れた。
夢見る顔で、成留は奏の唇を唇で噛んだり、軽く押しつぶしたりした。奏の息が成留の唇に当たる。それを拾いたくて、成留は舌を伸ばして奏の唇を舐めた。そのままゆっくり口内に侵入し、歯の隙間をくぐって上あごをくすぐり、頬裏をつつく。
「んっ、んぅ」
ちいさな奏のうめきに、成留の体は熱くなった。
「先輩……、奏」
呼び捨てられて、奏の心臓がギュッと痛んだ。はじめて成留に名前を呼ばれた。しかも、下の名前を呼び捨てで。名字で呼ばれたことすらないのに。
思う以上にうれしくて、奏は成留に抱きつきたくなった。浮き上がった手を布団に戻してガマンする。この後、成留がどうするのかを知りたい。このまま成留の行動を、肌で観察していたい。
成留は時間をかけて丁寧に、奏の口腔を愛撫した。体がどんどん熱くなっていく。俺だけじゃなく、先輩も感じている。俺のキスで、先輩が熱くなっている。これは、気のせいでも勘違いでもないよな――?
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