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「風呂、あいたぞ」
奏が声をかけると、成留はキラキラした顔で振り向いた。
「先輩もいっしょにコレ観ましょうよ」
「あ? なんの番組だ」
「世界の超常現象です」
ワクワクしている成留に、奏はけげんに片目をすがめた。
「超常現象だぁ? どうせヤラセだろ」
「あれっ。先輩、そういうの信じないタチですか」
「信じるも信じねぇも、CGとかだろ。そういうの」
「まあ、ニセモノもあると思いますけどね。でも、面白いですよ」
成留が座布団を自分の横に引き寄せて、ポンポンとたたく。
「観たら風呂に入れよ」
チラリと座布団を見てから、奏はスルーしようとした。すると成留が立ち上がり、奏の両腕を掴む。
「まあまあ、いいじゃないですか。こういうの、誰かと観るほうが楽しいでしょう」
「べつに、ひとりだろうがふたりだろうが、内容は変わんねぇだろ」
「先輩。もしかして、怖いんですか?」
「なっ」
ギクリとした奏に心の中でニヤリとしつつ、表面上はいつもの顔で成留が言う。
「信じていないんなら、平気ですよねぇ」
「ああ、まあな」
言いながら、奏は目をそらした。懸命に頭を巡らせ、断る道を探す。本当は信じている上に怖いだなんて、カッコ悪くて言えやしない。年上の男としての威厳に関わる。
そんな奏の気持ちを見通した成留は、強く奏の腕を引っ張った。
「じゃあ、ほら先輩」
苦い顔で座布団に座った奏は、海外のホテルに設置されている監視カメラの映像や、人ではない子どもを産んだ女性の話、幽霊が出るとウワサの日本の古い建物への潜入、寺に伝わる鬼の面など、次々に紹介されるものに身をこわばらせる。
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