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「生きてるか?」 「な、なんとか」 力ない返答に神崎は笑い、陸の隣にごろんと横になった。 ふぅ、と息を吐く横顔を眺める。 「ワガママ言ってごめんね、先生」 「は?なにが?」 怪訝そうに神崎が陸の方を見る。陸は顔を天井に向け、「だって」と続けた。 「無理やりしてもらった挙句、俺、初めてだから、逃げ腰で」 陸から誘ったようなものなのに、自分のことだけで精一杯だった記憶しかない。行為中は神崎に一番近づけたようで陸はすごく幸せだったけど、なんだか色々と気を使わせてしまっただけな気もする。神崎はちゃんと気持ちよかったのだろうか。ちゃんと満足したのだろうか。少し不安が頭をもたげる陸を、神崎は「バカじゃねぇの」と切って捨てた。 「バ、バカ……」 ショックを受ける陸の鼻を、神崎はつまんだ。 「い、いたっ」 「してもらったってなんだよ。したくなかったわけないだろ。お前よりもずっと俺の方が悶々としてたっつーの」 怒った顔をする神崎に、陸は戸惑いながら「そ、そうなの?」と尋ねた。 「そうなの。でもさすがにこの歳でがっつくのも大人気ないっつーか、自制してたっつーか。色々考えるところもあったし。お前、俺のことなんだと思ってんだよ」 「なにって、……〝先生″?」 神崎は疲れたように、はぁ、と深い息を吐いた。 「もう先生じゃないだろ」 「……うん」 神崎の言葉を噛みしめるように、頷いた。神崎はもう、陸の先生じゃない。わかっているつもりで、わかっていなかった。 神崎だって、完璧な人間じゃない。陸より大人でも、色々ままならない感情に振り回されているのだと知って安心した。
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