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「先生もワガママ言っていいよ」 「なんだよいきなり」 急に明るい声で大きなことを言い出した陸におかしそうに笑い、「そうだなぁ」と呟く。そしておもむろに陸の腕を掴んだかと思うと、身体をぐいっと引き寄せ、首筋に顔を寄せた。 「じゃあ、もう一回」 言いながらも本気ではないようで、首筋に触れる唇に性的な気配は感じられない。 「ワガママじゃないじゃん」 楽しそうに笑う陸を見て、神崎は目を細める。抱きしめられると、陸の胸はぽかぽかと温かくなって、神崎にも伝わるようにと広い背中に腕を回した。 この時間がずっと続けばいいのにと思うくらいの幸せに浸っていると、ふと、壁時計が目に入った。瞬間、目を見開く。随分と時間が経っていたことに驚いて、陸は神崎の背中をぺしぺしと叩いた。
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