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「もうそろそろ起きないと遅れるよって、声かけてきてくれる?」
「はーい」
いい逃げ道が見つかったとばかりに、蓮は素早くリビングから逃げ出した。
苦笑しながら、朝食の準備をすすめる。海がいつのまにか隣に来て、じっと陸を見つめていた。
「どうしたの?」
「りっくん、昨日はどこで寝たの?」
「え!」
思わず海から一歩距離を取ってしまった。昨夜の行為がボンッと脳裏に浮かび、きょろきょろとせわしなく視線を動かす。
「ど、どうしてそんなこと聞くの?」
「どうしてそんなに慌ててるの?」
質問返しに、言葉に詰まる。これじゃ自分から墓穴を掘っているようなものだ。海の質問に深い意味はないはずだ。ただ純粋に気になっているだけなのだから、冷静に答えればいい。陸は目玉焼きを乗せたお皿を持って、テーブルに運ぶ。
「せ、先生の部屋だけど」
「……」
後ろをついてくる海の、じっ、と背中に刺さる視線が痛い。陸の脳内に浮かぶ映像が頭上に映しだされていて、覗かれているような錯覚に陥る。この記憶を覗かれるわけにはいかない。慌てて頭から排除しようとするがーー。
「おはよう」
リビングに、蓮を引き連れた神崎が、大きなあくびをしながら現れた。瞬間、陸の顔が一気に赤くなる。それを見ていた海からぶわりと黒い空気が漂う。
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