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神崎が噴きだす。海の行動がツボにはいったらしい。だが陸は、あまりに悲壮感が漂っている蓮の様子が気の毒で、諌めるように神崎を睨んだ。すると神崎はコホン、と一つ咳払いして、蓮の隣に片膝をついた。ぽんぽんと小さな肩を叩く。 「まぁ、あれだ。失恋の一つや二つ、乗り越えられるくらいの強い男にならないと、これから先の長い人生戦っていけないぞ」 だから頑張れと、小学生相手に少しばかりスケールの大きな励ましをしている。だがその顔は笑っているので、純粋に面白がっているのがわかった。 心が全くこもっていない神崎の励ましは一ミリも心に響かないらしく、いまだ蓮の石化は解けない。きっと海にしかこの状況は打破できないだろう。 「う、海、なにか、蓮くんが元気になるようなことしてあげて」 「なにかって?」 海が首をかしげる。 「わかんないけど、このままじゃ蓮くんがかわいそうだから」 海一筋で約一年、恋心を温めてきたのだ。初めから男の子だとわかっていたならともかく、このタイミングで真実を突きつけられるのは辛い。 海はしばらくなにか考えていたが、ややあって蓮の傍に寄った。気配に気づいた蓮が顔をあげる。 「海?」 涙で濡れる目をパチパチさせる蓮の頬に、海はおもむろに唇を寄せた。 チュッと軽いリップ音が鳴る。固まったのは、蓮だけではない。陸も神崎も、海の突然の行動に呆然としていた。
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