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「家のことは心配しないで。海も色々お手伝いしてくれるから。ね、海」 こくりと海が頷く。途端に望巳に笑顔が戻り、目尻が下がる。 「そっかそっか。海ちゃんがいるなら大丈夫だね」 こくこくと何度も頷く海を微笑ましく見守りながら、陸は言った。 「だから父さんはお仕事頑張って。父さんのこと待ってる人がいるんだから」 こんなにのほほんとのんびりした空気を出している望巳だが、職業は医師だったりする。仕事をしている現場を見たことがないので、こんなにおっとりした望巳が緊迫した環境で仕事をしている姿がいまいち想像できない陸だったが、忙しいことは確かなようで。陸が幼いころから、夜遅く帰ってきては朝早く出ていく生活を送り、帰ってくるのはまだいいほうで、帰ってこられない日々が続くと何日も顔を合わせないなんてこともしょっちゅうあった。 だから授業参観や卒業式などの学校行事に望巳はほとんど参加できなかったし、誕生日なども一緒に過ごした思い出はほとんどない。それに対して望巳が常日頃から罪悪感を抱いているらしいことを陸は知っている。だから望巳が辛そうな顔をするたびに、陸は笑顔を浮かべる。
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