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一時間くらいして、コトンと目の前にお皿が置かれる音がしてそっと目を開けた。
「おまちどさん」
そう言ってお兄さんはタオルで手を拭きながら微笑む。
ゆっくりと視線をテーブルの上におとした。
ほくほくと上がる白い湯気と共に、優しい匂いが鼻腔を擽る。
ケーキのように三角形に分厚くカットされた、それはキッシュだ。
表面のチーズが程よく茶色に色づいて、香ばしい香りを立たせている。カットされた面からはベーコンが見えていた。
「バターと牛乳を一緒に温めてちぎったパン耳をこねてん、だからパン耳キッシュやで」
「パン耳キッシュ……」
はい、とフォークを渡されて受け取ってそっとフォークを入れて口に運ぶと、やっぱり優しいしくてどこか懐かしい味がした。
フォークをテーブルの上に置いて俯く。
目から大粒の涙が零れた。
それは頬を伝ってボタボタとテーブルの上に落ちていく。
嗚咽を漏らすまいと強く唇を噛んで肩を震せていると、頭に大きな手が乗せられた。
優しくて、温かい手。
温かい料理をつくる手。
私は、こんな手を持っていた人をよく知っている。
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