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「キャベツのお漬物、昔作ったことあったよな」
「漬物? せやったかな」
「お父さんが入院してる時やな。丁度お祭りで忙しかった頃に。ほら、雑貨屋の富子さんに作ってあげたん覚えてへん? 依ちゃん」
そう言われて、先程通ったシャッターの閉まった店が脳裏に浮かぶ。
もともとあのシャッターが閉まった店には、雑貨屋さんがあったのだ。
その店の店主であった勘吉さんと、その妻である富子さんはとても仲のいい老夫婦で、長年この商店街で雑貨屋「ジュエリー」を営んできた。
しかし、私が高校一年生の秋、丁度商店街とスーパーで合同のお祭りをする企画が持ち上がった頃、やむを得ない理由で皆に惜しまれながら店を畳んだのだ。
「ああ、懐かしいなあ。富子さんと勘吉さん」
目を細めたハルさんは、小さな声でそうつぶやく。
静かな店内ではその呟きはよく聞こえ、私は同調するようにひとつ頷いた。
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