母の味、心温まるパン耳キッシュ

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「悲しいこと、あったん?」 その人は私の前に屈んで顔を覗き込みながら優しく尋ねてきた。 何も言わずにただ黙ってぼんやりと膝の上の買い物袋を眺めている私に、その人は一層困ったように眉を下げながら笑った。 「もう、ほっといて下さい」そう言おうとしたその時、その人は私の膝の上の買い物袋から出ていた牛乳パックの頭を人差し指でツンとつついた。 「これ、朝ごはんなん?」 予想もしないような質問を唐突に尋ねられて、目を丸くした。 お兄さんはふにゃりと笑うとまたツンツンと牛乳パックをつついて、「朝ごはん?」と尋ねてくる。 思わずこくりと頷くと、お兄さんは「よし」と膝をぽんとたたいて立ち上がった。
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