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「女神の書はまだまだかかるんだろ?」
「まあね。これでも急いでるんだけどさ」
「それならいい。慌てて書いて間違いだらけなんてゴメンだからな」
「せいぜい気を付けます」
そう言うとユキは両手に荷物を抱え立ち上がった。
「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみ」
アルスはユキが出て行った扉を見つめると静かに開いていた本を閉じた。
「ふられた……って事か……?」
アルスの口からため息と一緒に言葉が滑り落ちた。本に体重を乗せ立ち上がると大きくのびをした。
「でも……」
当分の間はここにユキはいるんだ。
時間はまだまだある。
時間があれば考えなど変わる。
変えてみせるさ。
少なくとも……
「ユキは俺の事が好きなんだ――――」
言葉にするとアルスは部屋の中が一気に加熱されたように感じた。
額が汗を吹き、顔が火照る。
あまりの暑さにアルスは書庫の窓を開いた。
夜風がふわりと汗ばんだ肌をなでつける。
「今日は曇りか……」
夜空を暗闇と同じ色をした雲が覆い尽くしている。
そこにあるだろう月の周囲だけが墨色の空をいくらか明るくしていた。
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