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防犯ブザーだ。
ユキは実家から学校に通っているが、その道中は主に電車だった。高校生の時その電車で痴漢に遭い飛び上がる思いをしたのだ。半泣きで自宅に帰ると母親はその日から防犯ブザーを必ず持つように、出掛ける際には玄関口で毎日声をかけるようになった。
今日も朝から声を掛けられて気づいた。
マリカの家に泊まりに行くので肩掛けのツーウェイタイプのバッグからチェックのリュックサックに持ち替えていたのだ。母親の指摘で防犯ブザーを出がけにリュックの紐に掛け替えた。
ユキは白いテロンと丸みを帯びたそれを握り締め思いっきりボタンを押した。
キュリリリリリリリリリリリリリリリ
大音量が何もない大地に響き渡った。男たちは聞いたことも無い奇妙な大音に飛び下がった。
ユキは立ち上がるや否や、「こんなに速く走ったことはない」と自分で思うほどの速さで疾走した。
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