第二章 ブルーベリーモンスター 

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 魔の夕暮れシーンになった。何度も細かい指示を受けて撮り直したことを思い出し、身震いする。女性の役なのに、僕でいいのだろうかと案じていたのだが、別に気にはならなかった。前に見たインタビュー映像の途中にあった雑談っぽくなってしまったシーンもカットされ、実名が出てしまっていた箇所にもピーという音が被せられていた。  あれだけ撮ったのに、使われたのは三分あるかないかだったことに驚く。映像としての正解はわからないけど、テレビでよく見るような「ぽい」映像に仕上がっていた。喜多村は腕を組み、満足そうな顔で画面に視線を送っている。 『そして、わたしたちは、この映像を撮影した帰り道に、決定的な瞬間に立ち会うことになるのです』  喜多村のナレーションが入ると、画面が暗転し、慌ただしく揺れているものに変わった。大通りで起こった事故の音を聞き、走っているところだろう。息づかいと揺れる画面によって、カメラマンの胸の鼓動、興奮までもが観ている僕らに伝わってくる。  倒れているママチャリと女性、横転しているバイクと男、見覚えのある光景だ。  おや、と思ったのは、立ち上がったバイクの男にビデオカメラが向けられた時だった。見覚えのある人物が映り込んでいることに気づき、思わず目を剥く。  画面の向きが変わり、スーツ姿のレッドが走り抜けて行った。     
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