第二章 ブルーベリーモンスター 

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 レッドが走りながら、バイクに乗っている男に手を伸ばす。よく見れば、身体を捻り、鞭のように腕をしならせ、男をバイクから引き抜いていた。相手の動くエネルギーを利用する、無駄のない動きだ。そのまま、ハンマー投げでもするかのように、地面を強く踏み込み、ぽーんと男を放り投げている。口喧嘩でよく使われる「ぶっ飛ばす」というフレーズを実際にやるとこうなるのか、と知った。 「噂をすれば、だな」柿崎が指摘すると、喜多村が「本当だ。気づかなかった」と驚きの声をあげた。「入谷さん、いたんだ」  道路を挟み、反対側の角に入谷が立っている。  ふわっと意識がさらわれて、画面の中に放り込まれたような感覚に陥った。  だれもいない道の真ん中に、僕と入谷が立っている。太陽が沈み、空がオレンジから不穏な紫に変わる。わずかな肌寒さを覚えながら待っていると、向こうから、太陽を背に、じわじわとシルエットが浮かび上がって来た。レッドが美しいフォームで、真っ直ぐ鋭く、僕らに近づいてくる。  吹き飛ばされるのか、刈られるのか、生唾をごくりと飲み込み、隣を見る。入谷は勇敢な視線でやってくるレッドを見据えていた。彼女は、僕が来るよりも前から、レッドを待ち伏せし、今か今かと機会を待っていたのだ。ずっと、一人で、鋭い視線で、レッドを殴ろうと企んでいたのだ。 「行くわよ」  そんな声が聞こえた気がした。
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