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入谷と共に、町の外れにある小さな山にやって来た。山に来るのにも時間がかかったし、山を登るのにも時間がかかった。ハイキングコースとでも言うべき道ができてはいたのだが、それでもスニーカーで歩くのは大変だ。
「どこまで行くつもりなんだよ」
「もうすぐよ」
「登り始めてけっこう経つ気がするぞ」
「もうすぐよ」
「もうすぐ詐欺だ」
夜にランニングをしているとは言え、山登りは使う筋肉が、普段鍛えているものとは違う。後半は、太ももを上から抑えるように歩いていた。「着いたわよ」という入谷の声が聞こえて視線を上げると、入谷も息を切らせながら、額に溜まった汗を拭っていた。
「ここが目的地なのか?」
「そう」入谷が左手で、こんこん、と岩を叩く。
僕らの道は岩で塞がれていた。高さニメートル強、幅一メートルの角ばった卵のような大きな岩が佇んでいる様は、威圧的で、自然の荘厳さを物語っているようだ。
「去年、嵐の時に上から落ちてきたらしいのよ」
入谷の指差した方を見上げる。崖になっていて、土砂がむき出しになっていた。激しい雨によってえぐられたようにも見える。
「これを、これで、壊すわよ」
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