第二章 ブルーベリーモンスター 

26/59
前へ
/239ページ
次へ
「社会的には、求められてるんじゃないか? 個人的にはやめてもらいたけど」それは僕の素直な感想だ。今の世の中で、あれほどシンボリックに人々の願いを反映しているものはないのではないだろうか。テレビニュースをつければ、自分たちの考えを無視した政治家たちの取り決めが流れ、学校や会社に行けば、その社会に適応する為に、自分を犠牲にしなければならない。世の中、思い通りにならないことだらけだ。フィクションではなく、そんな現実の世界で、悪い奴をスカッとするほど倒す奴が現れたら、みなが夢を見るのではないだろうか。 「本当にそうなのかしら? あんなヤツがいたら、思い知らされるだけよ」 「思い知らされる?」 「どうしようもなく、自分が無力だって。持つ者と持たざる者の決定的な違いを見せつけられるだけ。何もできない自分が、露わになるだけ。力がない自分は、どうしてもヒーローみたいにはなれない。ああいう存在にはなれない、ってね」  圧倒的力を持ち、人々を救うがそれは完璧ではなく、人々の期待に応えるが同時に無力感も与える。それが、ヒーローであるレッドがしていることだと、入谷は言う。いや、ヒーローなんてものはそもそもただの言葉で、偶像でしかないのかもしれない。  ストロベリーレッドは、悪を挫く。だが、そこに人間に対する思いやりは存在しない。人間味のない者が、人間の世界に干渉をしていいのか? 持つ者のエゴがあるのなら、持たざる者のエゴだってある。それが、入谷がレッドに対して憤り、せめて一発殴ってやりたいと思う動機なのだろうか。  みんなの町を守るヒーロー、拍手喝采を浴びるヒーロー、みんなに愛されて待望されるヒーロー、僕らはそれに一生なり得ない。     
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加