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入谷の顔をまじまじと見る。入谷は、僕の様子を窺うことなく、視線を真っ直ぐ黒板に向けている。僕はカチカチとシャープペンをノックし、入谷のルーズリーフに書き込みをした。
『どういうことなのか教えてくれ。何か悪い予感がしたのか?』
ルーズリーフを入谷の机に置く。入谷は視線を落として文字をなぞり、再び左手に握っているペンを走らせた。
『昨夜、森須がうちから帰った後、感じたの。昨日は、特に酷かったからわかるのよ』
『っていうことは、時間は八時頃か。前にもこんなことがあったのか?』
入谷の様子を横目で確認する。少し目を細めてから、シャーペンを構えた。
『人が殺される時は、他の時と全然違うのよ』
『わかるものなのか、なるほど。レッドは防げなかったんだな』
『糸魚川に聞いたでしょ? あいつも全能じゃないのよ』
レッドは全能ではない。全ての事件をマークし、防いでいるわけではない。
昨日殺された人間は、それをどう思ったのだろう。
遠くに見えるだけの光に、意味はあるのだろうか。
『昨日の話、覚えてる?』
何のことだ? としばらく逡巡し、ペンを持つ。
『待ち伏せか?』
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