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若者で、高校生なのにグラウンドに出て汗を流さないなんて、水野からしたら意味がわからないのだろう。ましてや、チームメイトはおろか、クラスメイトともコミュニケーションを図ろうとしない入谷のことは、完全に彼の理解の範疇を超えているのかもしれない。
「入谷さんは学費免除の成績優秀者だからなあ。先生たちも手を焼いてんだよ」
「え? 入谷って頭いいの?」
驚きのあまり、声が上擦ってしまった。喜多村が大袈裟に頭を振ってため息を吐き出す。
「入谷さんは去年、学年トップだったんだよ? 森須がちょっかい出して成績下げるようなマネしちゃだめなんだからね」
「転校してきた森須だからこそ、入谷さんと仲良くなれてるのかもな。毒をもって毒を制すみたいな」
「それは、とても失礼だな」
「そっかー入谷さんがねー」
喜多村が、間延びした口調で言いながら、いたずらっぽく微笑んでいる。
「仲良くしてあげてね」
「普通に接するだけだよ」
「それでさ、うちの部に勧誘してね! 彼女で撮ってみたい話があるの」
「友達になれと言っているのか、それともスパイになれと言っているのか」
「仲良くなって、うちにも連れてきてねって言ってるのよ」
「喜多村、なんだかお母さんみたいになってんぞ」と柿崎が苦笑する。
あの不機嫌ヘッドフォンガールが、この能天気にへらへら笑う二人と、何の話をするのか想像がつかない。テストや部活、恋愛の話に対し、「バカなの?」の一言で全てを終らせてしまう気がする。
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