第二章 ブルーベリーモンスター 

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「人を観察してると、その人の物語が浮かんでくるの。入谷さんみたいな女の子が、実は別の世界からやってきた魔法使いで、人知れずみんなを助けてる、みたいな話を考えてるんだー」  喜多村が、鼻歌を歌うみたいに楽しげに言った。反射的に吹き出して笑いそうになるのをぐっと堪える。入谷は、魔法ではなく超能力者だ。それで誰かを幸せにしようとは思っていない。むしろ、僕を巻きこみ、正義のヒーローを殴ろうと画策している。 「ちなみに、僕は?」  自分だったらどんな物語なのか? と占ってもらうような気持ちで訊ねると、喜多村は短く唸ってから、「森須は暗いからねぇ」と苦笑いを浮かべた。心が削られる。  喜多村は当初の目的である映像のチェックをするべく、ビデオカメラを操作し、映像をテレビに出力した。「じゃあ、流すねー」という声と共にテレビ画面に映像が流れ出す。 「一月三十日、苺原にある某介護施設で働くH.Yは、残業をし、いつもより少し遅い時間に帰路についていた」  いつもとは声色が違うが、喜多村のナレーションだ。隣の席から教えてくれているみたいで、映像の中身がすっと頭の中に入ってくる。     
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