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高月凶矢は控えめに言ってクズだった。 ボサボサの髪に、生まれてこのかた洗ったことがないかのようにざらついた肌。 細身というより病的なくらい平たい体。 メガネの奥の目も不健康そのものの歪んだ色をしていた。 凶矢が秀でていたのは自身がそのことを十二分に自覚していたことだった。 クズであり根暗。 およそ友人などというもののない。 だが敵ならいた。 そして幸いにして生きる意味すら持っていたのだ。 復讐。 「あら、おかえりなさい」 このマンションの家主である中年の女とすれ違う。 会釈ともいえないくらい微かな動きでそれに答えた凶矢はそのまま階段をのぼり、自分が唯一支配できる場所にもどった。 後ろ手に閉めたドアの音で自分と世界との隔絶を確かめる。 薄暗い部屋のなかではPCのモニターだけが怪しい光を放っていた。 体重を背もたれに預け、足を組んで凶矢はそれを見据える。 画面のなかではデフォルメされたドクロが動きまわっている。 「ククク」 凶矢はこの日初めて感情らしきものを漏らすと、買ってきたパンを適当に胃に放り込む。 画面のなかのドクロ達は光を発したり増殖したりしていた。 「そろそろだな」 凶矢は暇潰しにTVをつけた。 なぜこいつらがコメントしているのか甚だ疑問なバラエティニュースが流れていた。 丁度タイムリーな話題だっただけに目を見張る。 「ネットゲーム市場は現在、衰退の一途をたどっており~」 当たればデカイが失敗すれば目もあてられないのがこの世界である。 凶矢はそんな中、目的のためにここまでのしあがった。 「ジャバリング・デッド」 ー口さがない死者ー 凶矢が開発したゲームの名前だ。 そして現在日本でもっともプレイ人口の多いゲームでもある。 数百万にものぼるプレイヤーたちを惹き付けているのは、その単純明確なルールと、敗者に対する容赦ないペナルティだった。 その分、勝者は十二分な快感を味わうことが出来る。 凶矢はスマホを立ち上げると、こちらでも「ジャバリング・デッド」を起動させた。 管理画面に飛ぶ。 その好況ぶりを存分に楽しんだ後、彼は目を、閉じた。 「さあ、はじめようか」 運営専用のページに配置されたドクロマーク。 それは彼が目的を果たすためにどうしても必要なシステムの起動ボタンだった。 腕を広げる。 闇の中で、ここまで上り詰めた多幸感に浸る。 彼は目を開け ボタンを押した。
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