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柳悟(やなぎさとる)は退屈していた。 学校にいてもやることがなく、といって家にいてもやることはない。 およそ彼にはやりたいことがなかった。 いや、なくなったというべきか。 周りでは同じく退屈しきった顔で男子がパズルゲームをぽちぽちやっている。 別に楽しいわけではないが惰性なのだという。 女子も同じパズルゲームにいそしんでいるものもいれば、恋愛ゲームで割合楽しそうにデートをしているものもいる。 残りは仲間同士で談笑だ。 全員が満足しているわけではないだろうが、それでも何かしらで時間を潰せる彼らを悟は羨ましく思う。 彼にはもうそんな気力もなかった。 青い空を窓枠を通じてぼーっと眺めていると。 しかし驚くべきことがおこった。 「おい、お前だろ、あの書き込み!!」 「はあ、な、何のことだよ!!」 いきなりのどなりごえ。 クラス中が吸い寄せられるように声の出所を探った。 悟は振りかえると、すぐに目についた。 一ノ瀬に斉木。 どちらもクラスの上位種だ。 別に傍観者を決め込んでいるわけではないが自然そういう立ち位置におさまっている悟より遥かに上の存在。 そんな彼らが激するなんて、ひどく珍しい。 彼は目の前の背中をちょいちょいと叩いた。 「なんだよ悟?」 馴染みの遠藤が怪訝な顔でこちらに問いかける。 悟は尋ねる。 「どうしたんだ、アレ?」 すいっと指差した先では一ノ瀬が斉木につかみかかろうとして、周りに取り押さえられている図があった。 「なにがあった?」 「ああ、あれか。…ゲームだよ」 「ゲーム?」 「そ」遠藤はやれやれといった様子で「ゲームが原因」 まさか一ノ瀬や斉木といった上位種がそんなことで争うとは思えず、悟は眉をしかめる。 遠藤もその疑念を読み取ったのか口調を正して 「や、ゲームが原因っても、ゲームそのもののことで争っているわけじゃなくてな。」 「じゃあいったい何がー」 「『ジャバリング・デッド』ってゲーム、知ってるか?」 ジャバリング・デッド。 悟も聞き覚えがあった。 斜陽に入りつつあるスマホゲーム界隈で唯一売上を伸ばしているゲームだったはずだ。 「そのジャバリング・デッドがどうしたんだ?」 「昨日、新システムが導入されたんだけどな、そのシステムが問題なんだよ」 そこで遠藤は詳しいことを自身あきれつつ話してくれた。 いわく、ジャバリング・デッドは単純な格闘ゲーム。
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