6人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなある日の朝、その習慣に異変が起きた。バス停に行く途中で、そいつに遭遇してしまったのだ。
顔と頭はふさふさした茶色い毛で覆われ、頭に奇妙に先の曲がった青いとんがり帽をかぶっている。目や口らしきものは見えないが、口と思しき位置に笛の吹口を構えている。身体は、鮮やかな緑のスーツを着ている。服装の奇妙さに違わず、その立ち姿も奇妙だった。膝を曲げ、腰を反らし、2本の笛の先を下ろしたり上げたりと、ヌルヌルとポージングをしている。普通だったら不審者扱いで通報してもよさそうだが、夜勤明けの体は言うことをきかず、ただボンヤリ立ちつくすしかできなかった。
「お前…屋上に立ってた?」
「やはり見ていたのだね、私のことを」
当然だが表情が全く読めない。声は音量がなくても良く響くが、わざとらしいセリフ調の話し方だった。
「てかさっき、なんて言った?」
俺は身構える。
「君はまさに、まわし車で走り続けるハツカネズミ」
一瞬、頭の中でピーンポーンと号令音が響く。ハツカネズミは、俺の仕様もない妄想だ。
「なんで、ハツカネズミって」
「そんなことより、君もあそこへ行ってみないか」
俺の問いを無視してその笛の開口部を向けられた瞬間、またもや号令音が響く。
ピーンポーン。
目の前が真っ白になり、すぐ黒になった。
最初のコメントを投稿しよう!