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「あっ…れ…?」
再び目の前が明るくなったときは、俺は風を身体で感じた。仕事場に入る前のあの激しい風ではない。心地よい、なでるような風だ。
久々に、心が軽くなる感覚。
「な…なんじゃこりゃああっ!!」
が、気づいて俺は柄にもなく叫んでしまった。俺は手すりすらない屋上のヘリに立たされていた。視界には、工場、倉庫、駐車場、工事現場を見下ろす景色が広がっていた。
「な、これ何?どういうこと!?は?はあああっ!?」
とにかく安全な場所へと動こうとして、足がもつれ腰が抜けて屋上の内側へと倒れこむ。自分の中で処理しきれない混乱は俺の変な動きと化し、ひたすら地面をたたいたり蹴ったりしていた。
そんな俺にそいつが近づいてくる。
「とりあえず落ち着こうか」
そいつの太いほうの笛で頭を小突かれる。
「いって!!」
思いのほか痛みが強く、俺は頭を抱えてへたり込む。
「なんなんだよ…」
俺はそいつを見上げるが、そいつは俺を向こうとせず、そのまま俺が先程立っていた場所にとまった。
「何気ない生活。見慣れた景色。そんなものも、視点を変えればまた違うものに見えるものさ。そしてそれが、時として素晴らしく感じられる」
笛をゆるゆるとバトンのように回しながら、またセリフのように語る。
疑問が残るばかりだが、俺は取りあえず体を起こして立ちあがる。そして改めて、周りに広がる景色を眺める。俺がいつも働く工場。だだっ広い倉庫。トラックがたくさん止まる停車場。何ができるのか見当もつかない工事現場。道路なのか駐車場なのかわからない砂利道。建物と建物の隙間を歩く黒い人間たち。普段は気に留めなかった高架の自動車道が近くに見える。電車の線路も見える。いつも使う駅も。
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