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だけどちょっとだけ、一度でいいから「胸が入らないからムリ」とか言ってみたい。それか「私、背が低いから服がおっきいのよねぇ」とか。
せめて顔面偏差値がもうちょっと高かったらなぁ。そうしたら勇気をもって、あるいは自信満々に、ポンッと気軽にタップができるのに。
麦茶をグビッと飲み干して、グラスをシンクに置きながらため息をつく。
そのまま離れようとしたら、おかあさんの声が飛んできた。
「洗っておきなさいよ」
テレビに夢中になっているとばかり思っていたのに、目ざといなぁ。
「わかってるって」
めんどくさいって気持ちが、思い切り声に乗ってしまった。だけど、おかあさんはなにも言わない。チラリと様子をうかがったけど、テレビから顔を離したようには見えない。後頭部に目がついているんじゃなかろうかと、たまに疑いたくなる。
テレビ画面には人気のアイドルグループが、お笑い芸人にからかわれて「もうっ」とかなんとか言っている。ぷっくり頬を膨らませて、自分がカワイイとわかっているからできる顔がアップで映る。同性から見てもカワイイんだから、男子からすればめちゃくちゃカワイイんだろうなぁ。
カワイイは最強。カワイイは正義。
はー、私もなりたい。なれるといいなぁ。
まだまだ成長過程だから、なんとかなるんじゃないかって希望はかすかに持っている。
だけどそれ以上に、いまより悪くならないようにと心配している。
おとうさんは中肉中背だけど、おかあさんはプクプクまるい。子どもを産んだら太っちゃったと言っていたけど、それだけじゃないってことを知っている。
だっていま、おかあさんの手には食べかけのドーナツがある。駅前のチェーンのドーナツ店は、いまだけ割引キャンペーン中。
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