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夕食後に出されたそれを、私は明日の朝ごはんにするって断った。ほんとは、ものすごく、ものすごぉおく食べたい。だけど、おかあさんの肉厚の指を見て思いとどまったのだ。私はおかあさん似だから、いまから気をつけておかないとヤバイって。
太っていることが悪いと言いたいわけじゃない。太っていても、カワイイ人はいる。むしろそれがチャームポイントって人を知っている。
隣のクラスの坂下さんは、ぽっちゃりだけどモテている。なんというか、おっとりしていて大福みたいで、見ているだけでほっこりするというか、なんというか。
あれはもう、天性のものだ。私はどんなにがんばったって、ああはなれない。というか、天然ものは、がんばってなれるものじゃない。
やせてもいなくて、太ってもいなくて。背も高くなく低くなく。顔もブサイクでもなければ美人でも、カワイクもない。平均値の見本みたいな私には、不利になるものがない代わりに武器になるものもない。
つまり、印象に残らない。
食器乾燥機に並んでいるグラスとおなじだ。おとうさんのグラスもおかあさんのグラスも、さっき洗った私のグラスもおなじ形。どれがどれだか見分けがつかない。水滴が残っているから、私がさっき使ったものだとわかるけど、そうじゃなければどれもおんなじ。
なんていうんだっけ。こういうの。じゅ……じゅっぱ、じゅ……うーん。思い出せないけど、まあいいや。
それよりも、もっと重大な問題が私の前に立ちはだかっている。
壁というほど厚くはなくて、シャボン玉みたいに、簡単に弾けて消えてしまいそうなもの。
ガラスみたいに向こうが見えているのに、しっかりと行く手を阻んでいるもの。
部屋に戻って、机の上で沈黙しているスマートフォンをにらみつける。
簡単なこと。
ポンッとタップをすれば終わるだけ。
それだけなのに、それができない。
繋がりたい。
繋がってもいいものなのに、それをする勇気がない。
誰だよコイツって思われたらどうしよう。
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