誰でも気軽に簡単になんて、絶対ウソだ!

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 恋をしたという自覚はない。だけど、目が勝手に彼の姿を追っていた。  部活中でもないのに、廊下や学食なんかでやたら見るなと思っていたのは、私が勝手に、知らないうちに、彼の姿を探していたからだった。  それからは妙に意識をするようになった。というか、勝手に目が追ってしまうのだから、どうしようもない。本能が目を動かして、彼の姿を発見するってかんじ。  無意識でやっているのだから、やめようと思ってやめられるものじゃない。  そんな状態がしばらく続くと、なんとなく彼の情報が私の耳にひっかかりはじめた。  好きなスポーツドリンクはなにかとか、ラーメンは味噌が好きだとか、キュウリが苦手だとか、理科が得意だとか。  そういう、なにげないことが私のアンテナに引っかかってくる。  そうすると、アンテナに引っかかったそれらを目にすると、勝手に彼の顔が脳裏に浮かぶようになってしまった。  部活で走っているときの顔や、友達とふざけあっている顔。真剣に筋トレをしている顔。学食で口いっぱいにご飯をほおばっている顔。無表情で、すうっと廊下を歩いている顔。  そういうものがランダムに表れて、私はあせった。  なんだか、ストーカーみたいじゃない。  胸のときめきがあるとか、そういうことじゃない。ただ単に、目が勝手に彼を追いかけて、耳が勝手に彼の情報を拾ってくる。それだけなのに、それだけだから、自分で自分が気持ち悪くなった。  ああ、どうしよう。  私、すっごい気持ち悪い。  こんなことを知られたら、ぜったい気味悪がられてしまう。  それなのに、彼のことをもっと知りたい。  欲を言えば、私のことをちょっとは意識してほしい。  だけど、彼の好みは――。
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