第4章 : 君の知ってる僕のこと、僕の知らない君のこと

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 いつもは眠そうな遠山の顔が、一瞬笑ったように見えて、目をしばたたかせる。そしたら今にも寝そうな顔だったら、見間違いだったのかもしれない。だけど同じくらい、笑っていたのかもな、と思った。笑っていたんだと思うことくらいは、許されているのかも。  前を見れば、三人がこっちへ顔を向けている。  にこにこ、満面の笑みの成島。眠そうに目を細めて、だけどちゃんと俺を見ている遠山。不機嫌そうに舌打ちをしているけど、きちんと待っている仁羽。遅れまいと小走りで追いつくと、成島が思い出したように聞いてきた。 「そういえば、ちょっと疑問なんだけど、園田っていつ名前覚えたの?」 「えー……いつって、クラス替えして自己紹介した時に大体覚えるけど……」  もっとも、友達の友達は友達、の原理で、中二現在知らない人なんてほぼいないので、自己紹介は記憶と名前の確認タイムだ。  だから、名前覚えるのなんてそんなに難しくないんだけどなぁ、という気持ちで三人を見ると、ものすごい特技、みたいな顔をしていた。  いや、俺の場合必要に迫られてやっただけで、たぶん特別記憶力がいいわけじゃないと思う。それに。 「……っていうかさ。俺じゃなくたって覚えてると思うよ。仁羽たちが関心なさすぎるんだと思う……」  そうか? という顔をしてるけど、絶対仁羽たちの方がおかしい。学年全員はないとしても、クラス全員なら覚えててもおかしくない。  誰のフルネームも知らないなんて、自分以外に興味がないにもほどがある。ここまですっぱり他人を気にしないで生きていければ、ある意味気持ちいいのかもしれなかった。俺には出来ないけど。 「やっぱりさぁ、園田はすごいよねぇ」 「いや……お前らのがすごいだろうよ……」  周りと関わる気ゼロで実践出来て、少しも苦痛を感じてないんだから天晴れだとしか思えない。だけど、成島はにこっと笑って「諦めないで偉いよねー」なんて言う。  どう返そうか、と考えていたんだけれど。昇降口を通り過ぎ、階段を上りかけていることに気づいてふと声をかける。 「……ん? そういえばどこに向かってんの? 俺たち」
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