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直接のきっかけはそこだと思う。木から下りるなんて、色々思い出すに決まっているから嫌だ。
座ったままで、三人を見上げながら答えると、真っ先に成島が動いた。跳ねるような足取りで一歩踏み出し、目の前にしゃがみこむ。
浮かんでいるのは華やぐみたいな笑顔だ。月の光を受けているのに、太陽の匂いがした。成島は自然な動作で、ポケットから取り出したものを俺に渡すと、言った。
「貸してあげる」
手の中をのぞきこむと、そこにはぴんく色をしたうさぎのあみぐるみが一つ。
「……。……えぇっ?」
一拍おいて、叫ぶ。これは間違いなくメノウ様のご神体!
こんな大事なもの、俺が持っていてもいいんだろうか。成島はどうするんだろう。離れて平気なのかな、と思ったらゆっくりと言った。
「貸すだけだよ、大事にしてね。それに、僕が先に行くからさ、ちゃんと下に着けば安全だってわかるでしょ?」
首を傾けて笑う様子はやわらかい。だけど同時に凛としてた空気もまとっていて、成島が格好良く見える。
「だからね、園田。一緒に行こうよ」
ね、と言って目の前でふわふわと笑う。当たり前みたいな顔で、「メノウ様もいるしー、僕が先に行くしー」と指折り数え上げるのは、どうやら成島なりの安全策らしい。
「ここまで来たら、四人一緒がいいでしょ?」
せっかくだし、と言う成島の言葉に答える前に。ぼんやりと俺たちを見ているだけだった遠山が、はっきりと言葉を落とした。
「確かに……ここまで来たら、四人そろって脱出しないと……つまらないよね……」
つまらなくていい! と心から思って首を振るけど、成島が嬉しそうにうなずいているし、どうやらこの二人はタッグを組むことにしたらしい。
あれ、逃げ道がどんどん破壊されていくような。
俺は最後の頼みとばかりに、仁羽を見た。目が合うと清々しくほほえまれたので、駄目だ、と思った。
「俺は散々怖い思いはしたからな。お前が同じ目に遭ってもそれはそれで……異存はない」
「知らなかったんだし俺悪くないじゃん!」
言い訳をするけど、全然聞いてくれなかった。もはや俺以外の三人は、ここから下りることが決定しているらしい。
嫌だってば、高いってだけでも嫌なのに木の上とか、思い出さないわけがないのに。
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