第5章 : call your name

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 ね、と言ったあと、俺の手の中のメノウ様に語りかける。とても自然な動作で、どんな気負いもない。ぴんくのあみぐるみがうなずいたような気がした。何も言えずにいると、仁羽がきっぱりと告げる。 「お前だけ許さないってさっきから言ってる」  強い声は、欠片も迷いがなかった。俺が嫌がるとか怖いとかそういうのは完全に無視して、答えなんて決まっているって顔だった。 「もう決定だから……」  抑揚のない、だけど耳に残る声で言うのは遠山だ。異論なんか存在しないみたいな顔で、当たり前の事実を告げる様子で淡々と告げる。  三人とも完全に俺の意見は無視しして、自分の考えを押し通す気でいっぱいだった。  息を吐いた。  言いたいことはたくさんあったはずだった。  嫌だ、行きたくない、怖いのなんて嫌だ。迷惑になる。俺のことなんて邪魔になる。  わかっていたのに、頭の中に言葉はいっぱい渦巻いている気がしたのに、言葉が上手く出てこない。いつもなら簡単に言葉を吐き出す唇が、縫い付けられたように開かない。 「――園田、行こう?」  成島が言った。真っ直ぐと俺を見て、穏やかに。きらきらとした光を宿したまなざしで、丁寧に。  呆けたように見つめていると、「ね?」と音を重ねた。それは、成島の背後に立つ二人に向けてのものだったらしい。仁羽が小さく舌打ちして「当然だ」とつぶやき、遠山がこくりとうなずいた。
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