第5章 : call your name

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 その様子に、許さないんだ、と思った。決まってしまったんだ、と思った。  三人とも、嘘でも何でもなく、一緒に行くのだと決めてしまった。それはたぶん、とてもひどくて無茶苦茶で、強引すぎる結論だ。  三人とも、俺がどれだけ喚こうと駄々こねようと、当たり前の顔をして許さないのだ。置いていくことなんて、許さないのだ。  理解した途端、ふ、と肩の力が抜けた。  だってきっと何言ったって意味がない。この三人が同じ方向に動いていて、俺だけ別方向へ行けるわけがない。それなら、それなら?  成島を見た。その後ろに立つ、遠山と仁羽を見た。当たり前の顔をして、一緒に行くんだと決めてしまった、俺の意見を全部無視して決定してしまった三人を見た。  成島はしゃがみこんだまま、にこにこ笑っている。  遠山は猫背だし眠そうなのに、きちんとこちらへ視線を向けている。  仁羽は真っ直ぐと立って強い目で俺を見ている。  ただその様子を見つめていると、じわじわと心の中に広がるものがある。  絶対怖いし、絶対嫌だ。怖いことはやりたくないし、嫌なものからは逃げ出したい。心の底から思っているし、嘘じゃない。  それなのに、三人を見たら思ってしまった。一緒に行くんだと何一つ疑いなく言う三人に、嫌だとか怖いとか逃げ出したいとか、それを上回るくらいの強さで思ってしまった。  だって許してくれなかった。当たり前の顔で、一緒に行くんだって言った。適当にあしらうんじゃなくて、無かったことにされるんじゃなくて、置いていくのを許してくれなかった。  無理やり強引に、一緒に行くんだって決まってしまった。俺の意志なんて無関係で、迷惑だって知ってて面倒くさいってわかってて、それでも押し切るつもりなんだ。  いくら俺が駄々こねた所で、三人にとっては決定事項だから俺が何を言ったって仕方ない。  無茶苦茶だと思うのに、ひどいと思うのに、それを上回るくらい強く、思ってしまった。 「…………おれ」  乾いた唇を開く。拳を握りしめて、三人を順番に見つめて言葉を押し出す。あとには引けないとわかっているはずなのに、熱に浮かされるように言葉が浮かぶ。  だって、許してくれないなら、一緒に行こうって言ってくれるなら、どれだけ怖くたって嫌だって。
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