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外を見ていた遠山が、ぽそり、とつぶやいた。どうやら俺に言っているらしい。
目の前にある枝について伝えてくれた所によると、窓のわずか下に張り出した枝は太くてしっかりしてるし、位置的にも「下りてください」と言わんばかりの絶妙な位置にあるらしい。
「……あ、着いたみたい……」
地面の方へ視線を移したらしい遠山が言うのと同じくらいに、成島の声がした。何かを叫んでいる。とりあえず無事らしい。
ほっとしていると、遠山はあっさり仕度を整えて、外に向かう形で窓枠に腰掛けた。それから首を巡らせてこっちを見た。笑った。
「……じゃあ、下で待ってるから」
真っ黒でも何でもなく、月の光みたいに澄みきって、透き通っている。ああ、こういう笑顔をするんだ、と思った。いつも眠そうで、何を考えてるかわからないけど、たまにひどいけど、こういう笑顔を、するんだ。
「……行ったな」
下りていく遠山を眺めながら、仁羽がつぶやいた。こっちに歩いてくると、座り込んでいた俺の腕を引いて無理やり立ち上がらせる。
「お前を最後にしたら、いつまで経っても下りて来なさそうだからな。まあ、お前の鞄は俺が持ってってやる」
床に転がっている俺の鞄を拾うと、自分の鞄と一緒に肩にかけた。仁羽がやさしいなぁ……と思って見てたら目が合った。視線の意味に気づいたらしく、苦々しげに答える。
「何だよ。ただでさえ不安なんだから、なるべく不安要素減らすのは当然だろ」
「そ、そうなの……? ありがとう……」
礼を言えば別に、とそっけなく返ってくるだけだった。そこでメノウ様をずっと握りしめていたことに気づいて、いそいそとポケットにいれる。お願いします、無事に済みますように……。
「……ん、遠山が着いたみたいだぞ」
窓に寄っていた仁羽の声に、心臓がひときわ大きく脈打った。下から声が聞こえている。
「ほら。園田の番だ」
と言われても、足が動かない。頭ではわかっているつもりなんだけど、体の方は完全に拒否している。数秒は待ってくれたけど、仁羽は短気だ。
すぐにいらっとした顔で、腕を引っ張られて窓際まで連れて行かれる。ぎゃあぎゃあ喚くけど、意味はない。
「……ほら。お前の、番だよ」
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