第5章 : call your name

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 あの日、俺は悟ってしまった。  俺はきっと、要らないってわけじゃない。だけどたぶん、いなくたっていいんだ。  目を閉じる。  静かに頬を伝うものを感じる。少しだけ立ち止まった。  あの時、俺は必死であとを追いかけた。下なんて見ないで、勘で下りていったら枝を踏み外した。枝と葉っぱにぶち当たりながら、地面に落ちた。苦しくて痛かった、けど――。  ひとりきりになるくらいなら、みっともなくたってみじめだっていいから、みんなの中にいたかった。知らないふりをしたかったんだ。  いなくていいって思われるくらいなら、馬鹿みたいでいいから何だって我慢出来たんだ。  だって、名前を呼んだら振り向いてくれるし、遊ぼうって言ったらうなずいてくれたし、すごいねって言ったら、笑ってくれた。一緒にいたら楽しいって思ってくれたし、嫌われていなかったし、仲間に入っててよかった。  たとえ、俺は声をかけられなくても、遊びに誘ってもらったことがなくても、忘れられても、後回しにされても。俺の名前は、呼ばれなくても。  目を開いた。  頭の中でこだまする、静かに耳に、聞こえる声。俺の名前を、呼んでいてくれる。    前を見る。暗闇の中にぼんやりと浮かび上がる幹とか枝とか、葉っぱを見る。深呼吸してから、足を踏み出した。きっと地面は近い。  あの日みたいに木の上にいるけど、俺はちゃんと知っている。  俺を置いていってもいいって言ったのに、許してもらえなかった。理不尽だって思ったし、ひどいとも思った。でも、俺は置いていかれなかった。見捨てられなかった。  ポケットの中のうさぎ。大事なものを渡して、大丈夫って言ってくれた。  澄んだ笑顔である意味強制的に、背中を押してくれた。  怖い顔をしていらいらしながら、何だかんだ言っても、ちゃんと支えてくれていた。  そして何より、「待ってるから」って言ってくれたんだ。あとからちゃんと行くって、言ってくれたんだ。俺はちゃんと知っている。  ちらり、と下を見る。暗闇の色が薄くなっているような気がする。再び枝に足をかけると、大きく木が揺れて葉っぱが落ちる。一歩を確かめながら下りれば、暗闇がはがれていく。  ついには、みっちり詰まった葉っぱにも終わりがやって来る。地面まではまだ少し高さがあるけど、やっと最後の枝に到着したみたいだ。 「園田だ!」
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