第5章 : call your name

24/28
前へ
/177ページ
次へ
 今回だって、きっとそうだと思ってた。邪魔になってうっとうしくなったらきっとそのまま見捨てられる。置いていかれる。あの時みたいに行ってしまう。 「でも、そうじゃなかった」  はっきりと口に出して三人を見る。  面倒くさそうな顔をしているかな、と思ったけど成島は笑っている。にこにこ満面の笑みじゃなくて、時々見かけた深いほほえみ。  遠山に笑顔はなかった。ただ真っ直ぐと視線を注いでいて、眠気が一つもなかったからよかったな、と思う。  仁羽はものすごい形相で、眉間に深いしわを刻んでいる。何も知らなかったらどんだけ不機嫌かと思うけど、これはたぶんそうじゃなくて、何かを耐えてるだけなんだ。  俺は丁寧に言葉を紡ぐ。 「いないことを許してくれなくて、ありがとう」  心から言葉をこぼしたら、にじんだ視界までこぼれて行きそうだった。だから慌てて、袖口で顔を拭うけどあんまり意味がない。じんわり浮き出している汗の所為だ。  タオルがあればなぁ、と思ったけど持ってない。ハンカチなんて常備してないし……と思った所で、ポケットの中のものを思い出した。 「あ、成島。メノウ様ありがとう。すごいよな、おかげで無事に済みました」     
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加