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今回だって、きっとそうだと思ってた。邪魔になってうっとうしくなったらきっとそのまま見捨てられる。置いていかれる。あの時みたいに行ってしまう。
「でも、そうじゃなかった」
はっきりと口に出して三人を見る。
面倒くさそうな顔をしているかな、と思ったけど成島は笑っている。にこにこ満面の笑みじゃなくて、時々見かけた深いほほえみ。
遠山に笑顔はなかった。ただ真っ直ぐと視線を注いでいて、眠気が一つもなかったからよかったな、と思う。
仁羽はものすごい形相で、眉間に深いしわを刻んでいる。何も知らなかったらどんだけ不機嫌かと思うけど、これはたぶんそうじゃなくて、何かを耐えてるだけなんだ。
俺は丁寧に言葉を紡ぐ。
「いないことを許してくれなくて、ありがとう」
心から言葉をこぼしたら、にじんだ視界までこぼれて行きそうだった。だから慌てて、袖口で顔を拭うけどあんまり意味がない。じんわり浮き出している汗の所為だ。
タオルがあればなぁ、と思ったけど持ってない。ハンカチなんて常備してないし……と思った所で、ポケットの中のものを思い出した。
「あ、成島。メノウ様ありがとう。すごいよな、おかげで無事に済みました」
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