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「つーか、お前らは今まで散々、俺のことを怖がらせて楽しんでいた節がある」
そういうわけで殴られてもらう、とか言ってるけど俺そんなことしてた!?
それに、たとえしてたとしても、「ああそうですかそれじゃあどうぞ」なんてことになるわけがない。全力で辞退します。
仁羽はじりじりと間合いを詰めてくる。完全に、仁羽の中では俺も殴る対象に入っているらしいけど、これは完全にとばっちりだと思う。
俺は後ろの遠山に視線を投げて、「なあ、どうにかして」と聞いてみた。どうせ何も言わないだろうけど、駄目で元々だ。しかし、意外なことに遠山が口を開いた。
「じゃあ……東門にはやく着いた方が、勝ちということで……」
「あれ、そんな話だった?」
突然すぎるので思わずツッコミ。なんで走るの。っていうか勝ち負けの問題じゃないだろ。
とか思ったのに、どういうわけかその言葉に一番乗り気だったのは成島だった。「徒競走だね!」と喜んでいる。
「まあ……逃げた方が良さそうだし……」
わずかに笑みを浮かべた遠山の視線を辿れば、地獄の使者のような顔をした仁羽がいるのでうなずきかけるけど。
「いやちょっと待て。遠山お前足は!」
「ああ……そんなの、気力で治ったよ……」
「治るかっ!」
しかし、俺の常識的なツッコミも完全にスルーされる。一方、全く空気を読まない成島は「じ
ゃあ、位置についてー」ときらきらした笑顔で勝手にカウントを始めてしまう。
ええと、どうしよう、とか東門までどれくらいあるんだっけ、とか色々考えてはいたんだけれど。
成島が「よーい、どん!」と叫ぶのと、仁羽が殴りかかってくるのが同時だったもんだから、地面を蹴って走り出す。遠山も成島も走り出して、獲物が逃げれば仁羽だって走る。
ええい、こうなったら全速力で逃げるしかない!
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