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年に一度の水上神社の夏祭りは、町中の人間が全員出かけてるんじゃないかってくらいのにぎわいを見せる。
子どもはもちろん、大人も老人もみんなで騒ぐお祭りで、町民のほとんどがこの日を心待ちにしていると思う。俺だって例外じゃない。
神社までの長い石段に吊るされた提灯の明かりとか、屋台の食べ物とか、景品とかを思い出してそわそわしてしまう。
このまま行くって言ってあるし、さっさと行かないと。夜になれば神輿も帰って来るし、それまでに神社に行かないとクライマックスを見逃してしまう。
「そういえば、水上神社って何祀ってるのかな? よく行くけど知らないなぁ」
「メノウ様じゃねえのは確かだ」
乗り出していた体を引っ込めて窓を閉めながら、成島がつぶやく。仁羽はそっけなく返したけど、意外にも遠山が答えた。ぽつりと、ゆっくり。
「……河童……と人と、ハーフ……」
「ハーフ?」
くりくり、と大きな目を瞬かせて成島が尋ねる。
遠山はゆっくりうなずくだけで説明をしないので、成島はハテナという顔をしたまま、長い沈黙が流れる。いたたまれないのでもう少し言い足そうと声をかける。
「……成島、やんなかった? 小学校の生活科で、瑞原町水神伝説みたいなの」
「忘れちゃった!」
清々しく言い切られ、まあそうだよなーと思った。成島がメノウ様以外に関心を持つわけがない。
とりあえず伝説だけ思い出そうとしたけど、残念ながら俺の記憶力はそういう方面は受け付けていないらしい。
「あーえーと……河童と、人と、河童と人のハーフがいて、協力して何かを倒したんだって」
ものすごく適当に言ったら、盛大に仁羽が舌打ちした。「中途半端に覚えてんじゃねえよ、気持ち悪い」と言うと、にらむような顔でまくし立てる。
「大昔、この辺りは河童と人間が共存してた。ある時災厄が訪れ、双方が危機に瀕した際立ち上がったのが河童と人間、両方の混血だった三人だよ。三人が命を賭して災厄と戦い、打ち払ったから、水上神社は三人を合祀してる。災厄が現れる夏の時期、神様が降りてきて厄除けをして各家を回るのが今やってる祭りだ。小学校の時、散々神輿の後ろ、囃子連中の山車引かされただろうが」
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