第6章 : そしてボクラは共に笑った

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 一番に東門にタッチしたのは俺で、そのすぐあとに仁羽が到着した。続いて成島がゴール! と飛び込んできたのを肩で息をしつつ見ていたら、当初の目的を思い出した。 「……殴る?」 「……もう、どうでもいい」  言ってみたら、呆れたような顔で仁羽が言う。不機嫌そうな顔をしているだろうか、と思えば唇は笑みの形をしていた。  ぱたぱたと襟元から空気を送るけど、シャツの中はぬるい風が通り過ぎていくだけだった。虫の声だけがどことなく涼しい。  植え込みや木立を抜けた所為か、空が広く感じる。頭上に張り出すのは、門の近くにあるどっしりとした木の枝くらいだ。 「あー、つい全力疾走しちゃったよ。馬鹿みたいだなー……」  体育館につながる外廊下を眺めつつ、アスファルトの地面に座る。微妙に砂や小石が散らばってて少し痛いけど、気にしない。  汗がゆるく落ちるのを感じながらつぶやくと、笑えてきた。右に気配を感じてそっちを見れば、成島も座っていて目が合う。 「……うん。馬鹿みたいだよねえ」  明るい目をして、そう言った。周りを見渡せば、仁羽も正面に座っている。ゆっくり走っていた遠山もいつのまにか到着している。  月明かりと外灯が、濡れるようなアスファルトと、座る俺たちを照らす。成島の言葉に答えたのは仁羽だ。 「……馬鹿みたいっつーか、馬鹿だよな」  言っていることはけなしてるみたいだけど、響きは違った。大きく息を吐いていて、のんびりとした口調だった。遠山もゆっくりと仁羽の隣に腰を下ろして、言葉を続ける。 「……学校に閉じ込められたなんて……馬鹿以外の何者でもないよね……」  だらりと手足を伸ばして、つぶやく。軽蔑するでも呆れるでもなく、ほのかな笑みをたたえながら。  確かに客観的に見て大馬鹿なんだけど、間違いないんだけど。笑えてしまうのは、楽しくなってしまうのはなんでだろう。 「ホントになー……結局祭りも行けずじまいだし」 「お前、ここまで来ても祭りなのか」 「そりゃーそーでしょ! 夏祭りは特別!」  感心するように言われたので、拳を握りしめて力説した。押し付ける気はさらさらないが、祭りの楽しさをもっと知っても罰は当たらないと思う。 「秋祭りも好きだけどさ、あれ神輿そんなにテンション高くないじゃん」
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