第6章 : そしてボクラは共に笑った

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 独り言より少しだけ大きな声は、決して全部呑み込んでるわけじゃないと告げる。些細な一欠片でも、俺の耳は確かに拾ったから。 「落ち着かないで済むだけ偉いと思う」  心から正直に言ったら、遠山が目を開いて俺を見る。返事があったことへの驚きか、内容に対する反応か、どっちかはわからないけど。遠山が言ったなら、俺はちゃんと答えたいな、と思う。 「……俺だったらさ」  深呼吸をしてから、言葉を選びつつゆっくりと言う。 「たぶん、妹のこともっと恨んだりとかしそうな気がする。俺一人っ子だからわかんないけど……もし、他の家族にかかりっきりで、自分のこと忘れられるとか、すげー嫌だもん」  一つずつはっきりと口に出す。案外簡単に言葉は唇から離れて、嫌だってちゃんと言えた。遠山は俺の言葉を聞いている。 「だから、複雑ってだけで済んでて、遠山は偉いなって、思うよ」  すげーよ、と言ったら遠山が意外そうな顔をして俺を見ていた。眠そうじゃなくて、きちんと起きている顔はとても貴重だ。目を逸らさずに見返すと、強い瞳が真っ直ぐ俺を捕らえる。 「俺だったら絶対、無駄に悪あがきする自信ある。いないみたいな、必要じゃないって思われるの、俺マジで駄目だもん」
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