第6章 : そしてボクラは共に笑った

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「労働基準法が出てくる時点でかわいらしくねえけど、深く突っ込むな」  確かに。色々突っ込む点は多いけど、深く関わってはいけない気がする。成島と遠山はまだ何か話してるけど、それもなるべく聞かない方向で行こう。 「……あーあ。来年は行けるかなー、お祭り」  つぶやいたら仁羽が笑った。吹き出したみたいで、珍しいな、と思う。 「お前……ほんと好きだな」 「うん。何かわくわくするんだよね」  うなずきながら思い出す。  見上げるほどの急な石段。駆け上がった先は、真っ直ぐ伸びた参道と並んだ屋台。  じゃがバター、やきそば、りんごあめ、たこやき、ベビーカステラ、あんずあめ、わたあめ、お好み焼き、クレープ……。  金魚すくいとかヨーヨー釣りとかスーパーボールすくいとか、射撃、型抜き、くじびき、お面……。  それに、普段は静かでひっそりしてる神社が、お祭りの日だけはにぎやかだ。  笛の音や太鼓の音、屋台の呼び込み、たくさんの人が交わし合う、会話の破片。  神輿のお囃子も行列も、いっそうお祭りをにぎやかにする。暗い森も、屋台のちょうちんに照らされてほんのり明るくなる。 「お囃子が聞こえてたからさー、余計諦めつかなかったんだよ。まだやってる、まだ間に合うって思っちゃて」 「……まあ……それはわからなくも……」  ねえけど、と続けながら、仁羽が黙った。笑いの残っていた目が急に鋭くなり、遠くへ視線を向ける。後ろに何かあるかのかと振り返ったけど、校庭が広がっているだけだ。  ただ、黙って考え込んでいる様子を見ていたら、仁羽は少しの沈黙を流したあと、こっちを見た。真剣なまなざしで、ゆっくり聞く。 「……お囃子、聞こえたよな……?」 「え、うん。図書室で一緒に聞いたじゃん」  そのあともちまちま、たまに聞こえてたよ、と続ける。仁羽もそうだったらしく、だよな、とつぶやく。 「神輿は、いつ帰ってきたよ?」 「へ。そりゃ、あれだろ、俺たちが美術室にいた時。ものすごいタイミングで鳴ったじゃん、号砲」  あれが、神輿が帰ってきたことを告げる合図だってことを知らないはずがない。毎年の話だし、仁羽だし。「だよな」とうなずくので、どうやら確認がしたかっただけらしい。
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