第6章 : そしてボクラは共に笑った

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 仁羽は、ずっとしゃべっていた遠山と成島を呼んだ。そして同じように、お囃子が聞こえたかどうか尋ねる。案の定二人はうなずいたけど、どうしてそんな質問をされたのかわからないらしい。  仁羽は二人の疑問を気にも留めず、やっぱり同じ質問「神輿はいつ帰ってきたか?」を投げる。 「……仁羽が……逃げた時でしょ……?」 「すっごい叫び声だったよねぇ」  やや気まずそうな顔をする仁羽だけど「それはいい」と答える。俺はそんな三人を眺めつつ、一体仁羽は何がしたいんだ、と考える。  神輿があの時帰ってきたことなんて、みんなわかってるのに。だからこそ、俺はこうして祭りが終わったことを嘆いているわけだ。  だって朝の階段下りが見られなかっただけじゃなく、帰りの階段上りも見られなかった。威勢のいいかけ声も、テンション高い神輿行列も、鳴物も見られず。お囃子は聞いたけど本物は見られなかったし……。 「……ん?」  何かおかしいな、と思った。考えようと頭を探っていたら、遠山の声が響く。 「神社とか神輿は確かに……遠いけど……。絶対聞こえないってことも……ないんじゃない……?」  やたらと不思議がる仁羽にそう返した。うん、俺もそう思う。  意外とよく聞こえるなーって思ったし、ちょっとあれって思ったけど絶対聞こえないってわけでもないだろうし……と内心でうなずいていたのだけれど、モヤモヤが去らない。  成島は二人のやり取りを交互に見ていて、仁羽は厳しい目をしたままだ。呪い殺しそうな凶悪な目に、新学期早々復讐されるヤツラの顔が浮かんだ。阿呆だよなぁ、と思ったのも束の間、違和感の正体を知る。 「ああっ、神輿行列か!」  朝、HRを抜け出した数人は何て言ってた? 「教室にいたんじゃ、祭りに参加出来ない!」「せめて音だけでも祭りの雰囲気を味わいたい!」って言ってたんじゃなかったか? 「国道通る神輿行列、学校からじゃ聞こえないんだって。だからあいつら教室抜け出したんだって!」  思わず叫んだけど、あれ、おかしくないか、何かものすごく。俺が気づいたってことを理解して、仁羽の目元は少しだけ和らいだけど、すぐに戻って眉間にしわが出来る。 「……そうだ。お囃子の音は確かに聞いた。……けど、俺たちそれ以外、聞いてねえよな」 「……お囃子以外……の音」
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