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「一応聞く。神輿が帰ってくる行列の音、何か聞いたか」
誰も返事をしない。そりゃそうだ、聞いてないんだから。
帰りの神輿行列なんて、誰かの耳に入るくらいなら、俺だって聞いてるだろう。それくらいでかい音だ。だけど聞いた記憶なんてどこにもなかった。
三人とも仁羽の顔を見てから黙り込む。
祭囃子みたいなかすかな音さえ聞こえたんだから、あれだけ大きな音を聞き逃すわけがない。それなのに、全然聞いた記憶がない。
わかっているから、黙るしかないのだ。神輿行列の音は聞こえなかったってことの意味を。
仁羽は鋭い目をしたまま、俺たちに視線を向ける。口元がひくひくしていて、言いたくないのに声にしようとしているみたいだ。
「……それで、だ。神輿行列の音とお囃子、どっちがでかいと思う……?」
仁羽がゆっくりと言った。口元が吊り上がっている様子は笑ってるみたいだけど、これは違う。答えるのをためらっている雰囲気があったけど、黙っているわけにもいかない。
「……神輿行列……」
一応もごもご返事したら、仁羽が小さく声を漏らした。笑い声のような、悲鳴のような。
「……だよな。俺もそう思う……というより、そう思うのが普通だよ、くそっ」
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