第1章 : 寄せ集めのボクラ

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 ほっと息を吐いていると、成島がアドレス交換大会を始めていた。渋っていた仁羽も「緊急用!」と言われて承諾したらしい。  誰一人通話アプリは入れてないみたいで、電話番号とアドレスを交換しているのが、ものすごくらしかった。  俺だったら真っ先にID聞くし、何ならアドレス知らない人間だっているのに。思っていたら、成島に名前を呼ばれた。 「僕のアドレスと番号、一応教えとくね。何かあるかもだから」  言いながら鞄を引っ掻き回し、手のひらサイズの紙を取り出すと手早く書きつけ、俺に渡した。満面の笑みとともに。当たり前みたいに。  あんまり自然だったから、何かを言うよりも前に、ほとんど無意識で目の前に差し出された紙を受け取ってしまった。小さい文字が紙の真ん中に書かれている。  机の上に置きっぱなしの携帯電話を思い出した。  クラスというか、たぶん学年のほとんどの連絡先が登録されている、俺の携帯電話。みんな俺から教えてもらった。クラス替えのたび、知り合いが増えるたび、俺は真っ先に連絡先を尋ねる。  ID教えてもらっていい? スマホじゃないからアドレスでもいいかな? って、みんな俺から教えてもらった。 「……ありがと」  アドレスに視線を落としながらつぶやいた言葉は小さい。  慌てていつもみたいに声を明るくして、次の言葉を探した。冗談でも言うみたいに、茶化すみたいに。 「アドレスにメノウ様、入ってないんだ?」  絶対入ってると思ってたのに! って言えば、成島が待ってました! と言わんばかりの笑顔で「A、G、A、T、E、がそう」と答えるので。  やっぱりいるのかよ。  思って再び目を落とすと、突然紙が奪われた。仁羽がひったくるように持っていって、机に広げる。右手にはいつの間にかペンが握られていた。 「俺のも書いといてやるよ」  偉そうに言うと、携帯の明かりを頼りによどみなくさらさらと書きつける。ペンを置いたところで、今度は遠山が仁羽に手を差し出した。一瞬その手を眺めてから意味を理解したのか、紙を渡す。  やはりためらうことなく、遠山はさらさらと記していく。そして眠そうな顔のままで、紙を俺に向ける。
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