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「園田はどうしてここにいるの?」
伸びあがって図書室の窓を閉めていた成島が、体ごと振り返ると言った。ふと思い出した、という雰囲気だった。大きな目が真っ直ぐこっちを見ている。
まだ開いたままの窓から風が入り、成島のふわふわした髪を揺らす。
重たいカーテンがゆっくり動いた。板張りの床に差し込んでいた夕暮れの日差しは、少し形を変えた。
「――どうしてって、なんで?」
意識して明るい声で聞き返す。止まっていた手を動かし、机の上に散らばったノートを片付けながら。
唇を引き上げて、目を細めて、面白がっているみたいな表情を浮かべる。
戸惑いなんて塗りつぶして、茶化すみたいな、冗談めいた雰囲気になってしまうように。
人のいない図書室には似合わないけど、たくさんの人がいる教室でいつも俺が口にしているのはこういう言葉だから、すんなりとなじんだ。
「んー。だって、園田はいっつも誰かと一緒じゃない? ひとりになることないでしょー」
成島はのんびりと「なんで僕たちの班にいるのかなって思って」と言って、ちょこんと首をかしげた。
背も小さく、かわいらしい顔をしているから、その仕草もあまり違和感がない。
「僕とかー、仁羽とかー、遠山とかは、いっつもひとりだけど」
言って成島が視線を向けたのは、使った本を片付けようと立ち上がった仁羽と、猫背で椅子に座り、のたのたペンケースをしまっている遠山だった。
確かに、この三人が誰かと一緒にいる場面なんて見たことがない。小学校と中学校同じだから八年付き合ってるけど、本当に見たことがない。
仁羽は俺たちの言葉が聞こえていたらしい。
銀縁眼鏡の奥から突き刺すような視線を送り、「くだらねえ話してないでさっさと帰るぞ」と言い捨てた。遠山は今にも寝落ちしそう。
成島は全然気にせず、さっきと同じ声の調子で続ける。
「でも、園田がひとりでいるとこなんて全然見たこともないもん。なのに、僕たちと一緒の班でしょ。どうして他の班じゃないのかなって思って」
大きな目をくりくり動かして尋ねる様子は、単純に疑問に思っているらしかった。馬鹿にするとか同情するとかそういう雰囲気は全然ない。
俺はどんな答えを返すのが正解か、笑顔を浮かべたまま考えてたんだけど。
「メノウ様も不思議だって言ってるよ!」
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