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視線に気づいた仁羽は、微妙に上ずった声で答える。眼鏡越しの目も揺れているみたいだし、顔も白い。月の光のせいだけではないような気がする。
思わず名前を呼んだら、「何だよ」と眉間にしわを刻んで聞き返してくる。不機嫌みたいだけど、それともちょっと違う気がする……。
「いや……あの、ツッコミは仁羽の役目だから放棄しないでね」
「はあ、何だそれ」
「ねー、二人ともどう思う!?」
仁羽に事情を説明しようとしたところで、俺たちの頭上を通り越して交わされていた会話が、こっちにも降りかかってきた。仁羽に気を取られていたので、今の話題がわからない。
「えーと、何が? 何の話?」
「あのね、月の光はしみじみするよねって言ったら、遠山はちょっと不気味って言うんだよ。そんなことないよね?」
電波な話だったらどうしよう、と思ったけど、質問の中身は理解出来る感じだった。思わず窓の外を見る。月の姿は見えないけど、ぼんやりした光は目に入る。
「……俺は、まあ。不気味とは思わないし、安心する……かな」
静かにふる、冷たい光。太陽のように激しくはないけれど、星より確かな光が届く。
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