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普段は全然気にしてなくて、月の光なんてあってもないようなものだった。
だけど光が手元の懐中電灯と、精々外灯しかない今の状況だと、月の光も充分ありがたい。弱々しくも思えるけど、それを見ると何となく休まる気がした。
成島は俺の返答にでしょー、と笑った。けれど仁羽は、青白い顔で気味悪い、と答える。遠山が無表情でうなずく。
「大体月は陰気なんだよ。ローマ神話に出てくる、月の女神ルナってのが語源になってるlunaticなんて単語は、精神異常とか狂人って意味なんだからな」
例えがいちいちインテリなのが仁羽らしい。遠山は、仁羽の言葉を受けるように淡々と言った。
「それに……狼男だって、月を見ると変身しちゃうし……。おかしくさせる作用があるよね……」
眠そうにしている目がわずかに開かれて、きゅっと下がった。どうやら笑顔のようだけど、楽しげには見えない。青白い顔の所為かやたらと薄暗く見える。
遠山の笑顔なんてレアのはずだけど、邪悪すぎてあんまり嬉しくない。
「うーん……そうなのかなあ……」
成島が納得しきれない顔で唇を尖らせて、水道の上にある窓へ目を向ける。静かな調子で言った。
「お月さま見てるとしみじみするけどなぁ。生き別れのお姉ちゃん思い出すし……」
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