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しんみりとした調子で言うから、三人とも黙った。月を探す成島の表情はどこか寂しげで、声をかけにくい。
家族関係は詳しくないからよく知らないし、どうすればいいかわからない。
慰めるのもなんか変だし、笑い飛ばすのもどうかって感じだし、と思っていたら、仁羽がいくぶん強い調子で言い放った。
「お前……、嘘吐くなよ」
真っ直ぐかけられた言葉に、成島が弾かれたように仁羽を見た。不思議そうな顔だった。仁羽が続ける。
「お前姉貴と一緒に住んでるって言ってただろうが」
この前見たぞ、とか言うので、おお、と思った。他人に興味なさそうな仁羽なのに、なんで成島のお姉さんの顔わかるんだろう。
思わず仁羽を見たら、俺の視線の意味に気づいたらしい。答えを口にした。
「六年の運動会の時、結構年離れた姉貴が弁当届けに来てただろう。その時顔見たから知ってる」
なるほど、あれか。美人なお姉さんが、弁当忘れた成島に届けに来てたっけ。あの成島の姉ちゃんということで、みんなで野次馬しに行った。随分年離れてるなーって思ったんだ。
てっきりあのお姉さんと生き別れになっちゃったのかと。
「あの時、もう社会人だけど実家から通ってるって言ってただろう。今もそうなんだろ」
つい最近見たらしく、「どこが生き別れだよ」と続ける。
成島は一瞬無表情になってから、うわあ、と叫んだ。お姉ちゃんの顔よく覚えてたねぇ、と続いた言葉は満面の笑みと一緒だったから、どうやら本気で感心しているらしい。
「すごいねぇ、仁羽」
お姉ちゃんのこと覚えててくれたんだねぇ、メノウ様、といつの間にか取り出していたぴんくのあみぐるみに話しかける。否定しないし、どうやら本当にお姉さんは一緒に住んでいる模様。
「よく覚えてんな仁羽……」
姉ちゃんの存在は覚えてたけど顔は曖昧なので、見かけても確信は持てないかもしれないのに。
記憶力いいんだなと思ってしみじみ言ったけど、仁羽は何も言わなかった。というより俺の台詞に気づいてないみたいだった。
成島はぴんくのあみぐるみを持ったまま、うんうんうなずいている。
「ねー、僕もびっくりだよ」
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