第2章 : 暗闇と秘密の行進

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 しんみりとした調子で言うから、三人とも黙った。月を探す成島の表情はどこか寂しげで、声をかけにくい。  家族関係は詳しくないからよく知らないし、どうすればいいかわからない。  慰めるのもなんか変だし、笑い飛ばすのもどうかって感じだし、と思っていたら、仁羽がいくぶん強い調子で言い放った。 「お前……、嘘吐くなよ」  真っ直ぐかけられた言葉に、成島が弾かれたように仁羽を見た。不思議そうな顔だった。仁羽が続ける。 「お前姉貴と一緒に住んでるって言ってただろうが」  この前見たぞ、とか言うので、おお、と思った。他人に興味なさそうな仁羽なのに、なんで成島のお姉さんの顔わかるんだろう。  思わず仁羽を見たら、俺の視線の意味に気づいたらしい。答えを口にした。 「六年の運動会の時、結構年離れた姉貴が弁当届けに来てただろう。その時顔見たから知ってる」  なるほど、あれか。美人なお姉さんが、弁当忘れた成島に届けに来てたっけ。あの成島の姉ちゃんということで、みんなで野次馬しに行った。随分年離れてるなーって思ったんだ。  てっきりあのお姉さんと生き別れになっちゃったのかと。 「あの時、もう社会人だけど実家から通ってるって言ってただろう。今もそうなんだろ」  つい最近見たらしく、「どこが生き別れだよ」と続ける。  成島は一瞬無表情になってから、うわあ、と叫んだ。お姉ちゃんの顔よく覚えてたねぇ、と続いた言葉は満面の笑みと一緒だったから、どうやら本気で感心しているらしい。 「すごいねぇ、仁羽」  お姉ちゃんのこと覚えててくれたんだねぇ、メノウ様、といつの間にか取り出していたぴんくのあみぐるみに話しかける。否定しないし、どうやら本当にお姉さんは一緒に住んでいる模様。 「よく覚えてんな仁羽……」  姉ちゃんの存在は覚えてたけど顔は曖昧なので、見かけても確信は持てないかもしれないのに。  記憶力いいんだなと思ってしみじみ言ったけど、仁羽は何も言わなかった。というより俺の台詞に気づいてないみたいだった。  成島はぴんくのあみぐるみを持ったまま、うんうんうなずいている。 「ねー、僕もびっくりだよ」
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