第2章 : 暗闇と秘密の行進

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 呑気にそんな相槌を打つ様子を横目で見ながら、なんでまた「生き別れ」なんて言ったんだろう、と思った。成島の口ぶりからすると、お姉さんはまだ家にいるみたいなのに。  それに、あの時の横顔は本当に寂しそうに見えたのに。やっぱりあれは月の光効果かな、と思って成島の顔をもう一度よく見ようとしたら、突然視界が黒く塗りつぶされた。  立ち止まって、周りを見渡す。他の三人も止まったらしい。暗闇の中ぽっかり出来た懐中電灯の輪も止まっている。 「……トイレ……だね」  丸い輪の一つが床をすべり、壁際を照らす。汚いプレートには「男子便所」と書かれていた。それを見て、やっとここがどこなのかを理解する。 「……ってことはここ、音楽準備室の前か」 「……そうみたいだねぇ」  暗闇の中から返事がある、と思ったけどよく見ると、トイレの方がほんのり明るい。ドアにある小窓から光が漏れていて、完全な暗闇ってわけじゃなかった。  だけど、もう片方の壁は音楽準備室だし、トイレはトイレで少し奥まった所にあるから、よけいに暗闇が濃く思える。その分、ほんのりした光が強く見えた。  校舎の見取り図を思い浮かべると、階段まであと少しだな、と思う。いつの間にか、廊下も結構進んでいたらしい。  そろそろ四階ともお別れだ、と思ったら光が揺れた。見れば、成島が懐中電灯を振りながら手を挙げている。 「僕トイレ行ってくる」 「我慢しろ」  真っ先に仁羽が却下した。ものすごい即答の上冷たかった。しかし、成島はまったく気にせず「トイレ見たら行きたくなっちゃったー」と笑っている。まあ、生理現象だし我慢はよくないよな。  そういえば、俺も最後にトイレ行ってから結構経ってる。気づいたら俺も行きたくなってきた、どうしよう。 「俺も行く……」  葛藤していたら、さらりと遠山が告げる。こうなったら、この機会に便乗してしまおう。「ごめん俺も……」と控えめに、小さく手を挙げた。  男同士で連れションもないとは思うけど、バラバラに行くよりはマシかなってわけで、今は目をつむることにする。 「じゃあ、仁羽は外で待ってて。行かないんだよね?」  成島が無邪気に問いかけて、仁羽はそうする、と答えた。数秒のあと、うっすらとした光の中に浮かんだ笑顔は、ぎこちなかった。
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