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呑気にそんな相槌を打つ様子を横目で見ながら、なんでまた「生き別れ」なんて言ったんだろう、と思った。成島の口ぶりからすると、お姉さんはまだ家にいるみたいなのに。
それに、あの時の横顔は本当に寂しそうに見えたのに。やっぱりあれは月の光効果かな、と思って成島の顔をもう一度よく見ようとしたら、突然視界が黒く塗りつぶされた。
立ち止まって、周りを見渡す。他の三人も止まったらしい。暗闇の中ぽっかり出来た懐中電灯の輪も止まっている。
「……トイレ……だね」
丸い輪の一つが床をすべり、壁際を照らす。汚いプレートには「男子便所」と書かれていた。それを見て、やっとここがどこなのかを理解する。
「……ってことはここ、音楽準備室の前か」
「……そうみたいだねぇ」
暗闇の中から返事がある、と思ったけどよく見ると、トイレの方がほんのり明るい。ドアにある小窓から光が漏れていて、完全な暗闇ってわけじゃなかった。
だけど、もう片方の壁は音楽準備室だし、トイレはトイレで少し奥まった所にあるから、よけいに暗闇が濃く思える。その分、ほんのりした光が強く見えた。
校舎の見取り図を思い浮かべると、階段まであと少しだな、と思う。いつの間にか、廊下も結構進んでいたらしい。
そろそろ四階ともお別れだ、と思ったら光が揺れた。見れば、成島が懐中電灯を振りながら手を挙げている。
「僕トイレ行ってくる」
「我慢しろ」
真っ先に仁羽が却下した。ものすごい即答の上冷たかった。しかし、成島はまったく気にせず「トイレ見たら行きたくなっちゃったー」と笑っている。まあ、生理現象だし我慢はよくないよな。
そういえば、俺も最後にトイレ行ってから結構経ってる。気づいたら俺も行きたくなってきた、どうしよう。
「俺も行く……」
葛藤していたら、さらりと遠山が告げる。こうなったら、この機会に便乗してしまおう。「ごめん俺も……」と控えめに、小さく手を挙げた。
男同士で連れションもないとは思うけど、バラバラに行くよりはマシかなってわけで、今は目をつむることにする。
「じゃあ、仁羽は外で待ってて。行かないんだよね?」
成島が無邪気に問いかけて、仁羽はそうする、と答えた。数秒のあと、うっすらとした光の中に浮かんだ笑顔は、ぎこちなかった。
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